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2002.01.21号(食べ物)

■■ タコス・アルパストール ■■

タコス・アルパストール
(サカテカスのタコス屋さんで)

 メキシコの食べ物で、一番よく知られているものといえば、やっぱりタコス。「タコス」という名前で普通呼ばれていますが、トルティージャに肉や魚介類、野菜などを包んで食べるものをタコ(Taco)といい、タコスはその複数形です。メキシコでレストランやタコス屋さんなどに行くと、メニューにはまずTacosとあり、何のタコスにするのかを選びます。

 私の一押しは今回ご紹介する「アルパストール(al pastor」なのですが、トルティージャに鶏肉などを巻いて揚げたドラードス(dorados)、それがうんと細長くなったフラウタス(frautas)、羊の肉で作るバルバコア(de barbacoa)、主に牛肉や豚肉の薄切りを使うアルカルボン(al carnbon)、チーズののったアラグリンガ(a la gringa)、タマネギやピーマン、チーズ、肉などをのせたシンクロニサード(sincronizado)、魚介類で作るデ・マリスコス(de mariscos)などなど・・・と実に様々なタコスがあります。どのような時間帯に売られ、食べられことが多いかもタコスによっていろいろで、さらに、日本の5倍という広大で変化に富んだ国土を持つメキシコ、地方によってもタコスの種類に特徴があります。

「タコス」という名称の起源

 歴史家エクトル・マヌエル・ロメロの記述によると、「タコ」という言葉が使われるようになったのは18世紀中頃のスペインのアラゴン地方やナバーラ地方で、食事時間以外にとる軽食のことをこう呼びました。たとえば、ナバーラでは農業労働者が午前10時から11時の間にとる軽食のことを指していました。また、スペインで「タベルナ」と呼ばれる居酒屋で食べる軽い夕食、あるいは旅行者が持っていくお弁当のこともこう呼ばれたそうです。また「タコ」という言葉自体については、サンタマリーアの「メヒカニスモ辞典(メキシコ語辞典)」に「スペイン語のatacarse(北米独自の使い方で、腹一杯食べる、という意味)から来ている」と書かれていますし、別の説ではいろいろな種類のトルティージャの名前がだんだんと変わってきて、最後には「タクアリ」から「タコ」となったというものも。

バルバコアはジンギスカンのよう。日曜日に山から来るバルバコア屋台で食べるのがとてもおいしかった

 肉のタコスは16世紀に生まれたとされていますが、エルナン・コルテスらスペイン人征服者一行がやってきたときにはすでに現在のタコスのようなものが食べられていました。湖水地方でトルティージャに「チャラル」という小さな淡水魚を包んだりして食べていたようです。また、現在のモレーロス州やゲレーロ州ではメキシコで「フミル」と呼ばれる食用の虫や、食用のアリ、プエブラ・オアハカ・チアパスの各州では「チャプリン」と呼ばれるコオロギに似た虫などを巻いて食べており、このチャプリンのタコスは今でもオアハカ州の名物となっています。

フラウタもかりかり
していておいしい

 現在のように実に様々なタコスが食べられるようになったのは、植民地時代に牛などの家畜の飼育が広まってからです。また、19世紀に既に、地方によってはタコスだけを出す店というのもあったのですが、今のような「タケリーア(タコス屋)」(taqueria)が一般化したのは20世紀の半ば頃でした。

ニューフェイス、タコス・アルパストール

タコス・アルパストールはメキシコでは比較的新しい種類のタコス。4、50年前頃から食べられるようになりました。もともとは中東の料理が起源と言われ、日本でも渋谷や原宿の道ばたでここ数年よく売られている「ドネル・ケバブ」というものがありますが、それとよく似た器具を使って焼いた肉を小ぶりのトルティーヤ二枚にのせて食べるのが一般的です。トルティージャには小麦粉のものとトウモロコシ粉で作ったものがあるのですが、アルパストールの場合は必ずトウモロコシ粉のものが使われます。そしてイスラム圏である中東では豚ではなく羊の肉を使いますが、メキシコでは特別なたれにつけ込んだ豚肉を使うのが普通です。お店では器具で焼いて薄く切った肉がだされますが、家庭で作ったものはつけ込んだものをただ焼いて固まりで食べたりもします。

タコス・アルパストール用の肉を焼く器具。真ん中の棒にスライスしてつけだれにつけ込んだ豚肉を重ね、ぐるぐる回して焼く


注文すると、ナイフで肉をそぎ落としてくれます

中東のどのあたりかということについては、レバノンあたりから来たという説が有力。この器具を使うと肉の表面だけが焼け、中の方は生のままなので、焼けたところからナイフでそぎ落としてトルティージャに載せ、また切られたところからぐるぐる回りながら焼けていくという具合です。パイナップルも一緒にぐるぐる回っていて、その焼きパイナップルを上にちょこっとのせて食べるお店もあります。生の刻みタマネギやコリアンダー(香菜)は絶対にはずせないトッピングで、それに好みで赤や緑のサルサ(ソース)をかけて、ライムを絞り、塩をちょっと振りかけて食べます。メキシコに行ったら一度は試さない手はない、まさに絶品! 私は週末の夜、映画を見に行った帰りには、どんなに真夜中でもほとんど必ずと言っていいほど夜食に5個ぐらいずつ食べていました。タコス・アルパストールのお店は明け方まで開いているところがとても多いのです。

レシピ

肉をつけ込むたれはお店の秘伝のものであることが多く、これによってタコス・アルパストールの味が左右されてくるといっても過言ではありません。とくにチレなど日本で手に入れるのが難しいような材料もありますが、インターネットでもレシピがいくつか紹介されています。そのなかのひとつをご紹介します。

材料(4、5人分)
豚ロースかたまり500グラム
トウモロコシのトルティージャ
タマネギ大2個
ベーコン175グラム
コリアンダー1束
パイナップルの輪切り
にんにく1かけら
青唐辛子1個
イタリアントマト13個
つけだれ250グラム(作り方別記)
つけだれの材料
チレ・ネグロ3個
チレ・グアヒージョ6個
にんにく5かけら
オレガノ 小さじ1
クミン 小さじ1/2
シナモン粉 小さじ1/2
クローブ(ちょうじ) 小さじ1/4
ワインビネガー 1/2カップ
砂糖 小さじ1
タマネギのみじん切り 1/2カップ
塩少々 (好みによる、小さじ1ぐらい)

作り方
1.バットに豚肉(ステーキぐらいの厚切りにしたもの)とつけだれを入れてつけ込む。
2.つけ込んだ肉を焼き網にのせ、ごく弱めの遠火で焼く。肉が少し焼けたら上にパイナップルの薄切りとタマネギ半分を載せ、弱火でさらに焼く。
3. 2時間ほど(肉の中までしっかり火が通るまで)焼いたら、細切れに切る。
4.トルティージャに盛りつけ、生の刻みタマネギと刻んだコリアンダーを載せ、サルサをかける。

サルサの作り方
1. 青唐辛子を好みの状態にまで揚げる。
2. 鉄板でイタリアントマトの輪切りを焼く。
3. 1と2を、にんにくと塩と一緒に挽く。

つけだれの材料
チレ・ネグロ3個
チレ・グアヒージョ6個
にんにく5かけら
オレガノ 小さじ1
クミン 小さじ1/2
シナモン粉 小さじ1/2
クローブ(ちょうじ) 小さじ1/4
ワインビネガー 1/2カップ
砂糖 小さじ1
タマネギのみじん切り 1/2カップ
塩少々 (好みによる、小さじ1ぐらい)
トウモロコシ油 大さじ3

つけだれの作り方
1. チレを水にふやかし、種とすじを取り除き、ミキサーにかける。
2. 1を濾す。
3. 2とその他の材料を一緒にミキサーにかける。
4. 3を再び濾す。
5. 鍋に油を熱し、弱火で4を10分間煮る。

(kanae)


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