オトキータ、胸キュンの巻

 まだ10歳だったルイス。彼は“アビラ家の長女アラセリ”の長男である。ここ1、2年で急に背が伸び、いつのまにか、父アルトゥロを追い抜いてしまった。最近、細い黒ぶちメガネをかけ始め、今でこそ知的で大人びた風貌をしているが、あの頃は、クリクリとした瞳のあどけない少年だった。

 大学教授の父と小学校教員の母を持ち、小学生の頃から勉強がダイスキ。現在通っている中学校からは、成績優秀者のみに与えられる奨学金を支給されている。将来は建築家になりたいそうだ。

 さて、1994年のある日曜日。私は初めて彼と出会った。当時の同僚で、彼のおばさんにあたるロサウラ(アビラ家の末娘)が、自宅に招待してくれたのだ。家族だけでなく、親戚の人たちまでいて、最初は緊張気味の私であったが、

 「ねぇ、カラテできる?」

 「セニョリータ コメタ(大場久美子のコメットさん)知ってる?」

 矢継ぎ早の質問を浴びせられているうちに打ち解けていった。

 あっという間に楽しい時間が過ぎ、そろそろ失礼しようかと思っていたその時、ルイスがやって来て、つぶらな瞳で言った。

 「ねぇ、オトキータ。僕が大きくなるまで待っていてくれる?」

 時は流れ、私がメキシコで迎える初めての誕生日。アビラ家のみんなが集まってお祝いをしてくれることになった。和気あいあいの中、少し背の伸びたルイスがじっとこちらを見ていることに気がついた。

 「ケ パソ?(どうしたの?)」と声をかけたら、

 「メンティロサ(嘘つき)。僕が大きくなるまで待っていてくれるって言ったのに。」

 その悲しげな瞳に、思わず胸キュン! のオトキータであった。

                         (完)        


このページのトップに戻る

エッセイコーナーのトップに戻る

トップページに戻る