一期一会 バス編

(2)質問おじさん

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クエルナバカの街には下の方を白く塗られた木がたくさんあります。
これはアリに食べられるのを防ぐためだそう。

初めてメキシコに行った年は10人近い日本人が一緒だったのですが、学校から家までは徒歩で通えるし、始めのうちはバスに乗るといったら観光が主だったので、いつもメキシコ人のガイドさんが一緒でした。クエルナバカにも少しずつ慣れてきたころ、日本人だけでセントロへ行こうということになり、バス乗り場やバスの番号を教えてもらっていざ出発!お目当てのバスに乗り、お金を払って、乗り過ごさないようにバスからの景色をじっと見ていると、突如イスに座っていたメキシコ人のおじさんから声をかけられました。どやどやと日本人の集団が乗り込んできたので、気になったのでしょう。「お嬢さんはどこの国の人なの?日本人?」「辛いものは食べたかい?おいしいだろう?辛いものは好きかい?」「クエルナバカはいい所だろう?」などなど質問攻撃。スペイン語にも少し慣れてきたところだったので、それらの質問にぎこちないけれど「そうよ、日本人よ。クエルナバカはとても美しい街だし、大好きだよ」と答えているうちに、緊張で手は汗でびっしょり。よく考えると、学校の先生とホストファミリー以外のメキシコ人とその時初めて話をしたんです。数分間でしたが、メキシコでの貴重な一歩となりました。

どうやらメキシコでは、「東洋人=日本人」という図式が出来上がるようです。(一昔前ならきっと「東洋人=中国人」だったでしょうけど。)日本にいると日本人から「日本語は話せますか?」と聞かれる私にとって、ほとんどいつも“日本人だろ”と言ってもらえるメキシコは、もうそれだけで好印象です。

(3)メガネの女の子

 メキシコ滞在中に日本人と偶然出会う確立は観光地や日本語学校、大学を除けばかなりゼロに近いと思います。クエルナバカで普通に暮らしていると、自分がメキシコ人と同じ容姿になってしまったと錯覚するほどアジア人の姿を見かけません。もちろん、日本をはじめアジアの人は住んでいるのですが、その割合は高くありません。

滞在中はスペイン語以外は通じない覚悟で過ごしていたので、とにかく辞書は肩身離さず持っていました。どこへ行くにも、誰といるときでも。

 ある日、私は語学学校に通っていた数人の日本人とともにセントロへと向かいました。もちろん、どのバスに乗ればいいのかをメモした紙を持って。しかし、いざ家へ帰ろうとすると、待てども待てども教えてもらった番号のバスが来ないのです。バス乗り場は間違っていなかったし、違う番号のバスが通りすぎていくたびに不安な気持ちが大きくなります。私だけならまだしも、ほかの人たちはスペイン語をほとんど理解できない人ばかり。頼れるのは自分だけ・・・。私はバスを待つのをやめ、バスが停まるごとに運転手に目的地の近くに停まるかどうかを聞く作戦に出ました。それを繰り返すこと数回、停まったバスにすかさず顔を突っ込み、運転手にたずねたその時、「どこにいくんですか?」という日本語が耳に飛び込んできました。ふっと客席を振り返ると、メガネをかけた同じ年くらいの女の子が座席から立ち上がって私を見ています。突然のことにびっくりしたものの、このバスも見当違いだったこので、彼女とろくに話すこともなくバスを見送りました。いつか異国の地に住むことになったら、彼女のようにできるといいなあと、ちょっとあったかい気持ちで次のバスを待ったのでした。


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