一期一会 トイレ編 (1)

国立芸術院 〜その1〜

このコラムの感想をお待ちしています!>>宛先はこちら


国立芸術院の外観。
ジーンズにスニーカーでは中に入る事さえちょっと躊躇してしまう。
もちろん、それで入りましたけど。

 メキシコにいる間に様々なショートドラマが生まれるのですが、その舞台に今回選んだのは“トイレ”。人間として、利用しない訳にいかないこの“トイレ”なのですが、今回は国立芸術院(Palacio de Bellas Artes)のトイレをクローズアップしましょう。

 民族舞踊(Ballet Folklorico)を見に行ったのは二年前のこと。ティファニーに特別に作らせたというガラス製の舞台用カーテン、天井には素晴らしいステンドグラス、そして私の席は二階席の最前列付近の中央。まるでVIP!?。もちろん、舞台も素晴らしい!心臓にまで響いてくるダンスのリズム、哀愁のある歌声、かわいらしいアルパの音色に美しいダンスと衣装。あっという間に前半が終了しました。そこで、後半が始まる前にお手洗いに行ってこようと思い、友達と二人で席を立ちました。

 迷うことなくトイレに着くと、品のあるセニョーラたちが並んでいました。順番が来るまでいつものくせで周辺ウォッチングをすることに。国立芸術院は建物の外観も素晴らしいのですが、建物の中も本当に素晴らしく、そしてトイレまでもがなんとも品のある美しさでした。宮殿の中のようなのですよ、トイレも。並ばないと入れないという点を除けば、貴族になった気分です。

 そうこうしているうちに順番が来ました。中に入り、用を済ませて、「さあ、流そう」としたのですが・・・ないんですよ、水を流すレバーが。一瞬、頭が真っ白になりました。こんな素晴らしい建物でトイレが壊れているはずがない。そうか!レバーじゃなくてボタン式なのかも!そう思って、トイレ周辺を探すも、それらしいボタンもない。焦っていると、足元に不自然な丸い模様があるのです。よく見ると緩やかなアーチを描いていて、ためしに踏んでみるとトイレの中の水がかすかに動いたのです!「これだったのか」と思い力いっぱい踏み込むのですが、スニーカーのそこが柔らかかったためにうまく踏み込めないのです。でも、踏み込まないと流れない。流れないと出られない。出られないと(舞台の続きを)見られない。そこで両手を壁につけで全体重をかけて何とか流してトイレから出ると、再び更なる難関が私を待っていました。なんと、手を洗う水を出すのも同じ仕組みだったのです。頑張って踏むのですが、ちょろりとしか水が出てこない。そばにいるセニョーラに“Mas fuerte!(もっと強く)”と言われても、そうできないんだから仕方がない。見かねた友達が私の変わりに踏んでくれました。気がつくと、周りのセニョーラたちはそんな私をわが子を見るように温かい視線で見守っていてくれました。本当に皆さん、ご迷惑をおかけしました。そして、ありがとうね。


エッセイコーナーのトップに戻る